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ローハベンガラ

 

ベンガラは、天然の赤鉄鉱として採掘された鉱物を粉末にした酸化鉄赤色顔料のことである。日本ではインドの北東部ベンガル地方産出の赤土が近世に交易品として広まったことからベンガルが語源とされ、酸化鉄赤色顔料のことを日本ではベンガラと呼び「弁柄」「紅柄」「紅殻」と表記する。

人類最古の赤色顔料はベンガラであり、旧石器時代フランス南西部のラスコー洞窟やスペイン北部のアルタミア洞窟の壁画の彩色に用いられ、洞窟周辺の鉄を多く含んだ鉱物を採掘して石で磨り潰し、指で擦り付けたのではないかといわれている。

日本では、縄文時代に土器の彩色に使用され、古墳時代にはベンガラを用いた壁画があり、例えば、高松塚古墳の壁画彩色では、女人像の赤上衣は「ベンガラ」で彩色されていた。ベンガラは、燃える炎、輝く太陽、体内を流れる血潮の色として特別な色と捉えられており、それゆえ「魔除け」「厄除け」死者の「再生」の象徴と考えられていた。また古代、鏡を磨くにもベンガラは不可欠なものであった。

仏教伝来により、寺社建造物の伽藍などの木部はベンガラで塗装されるようになったが、それらの建造物を彩る目的は、信仰、装飾、そして、木部の保護であった。祈りの場に特有の精神性を色褪せない赤としてのベンガラに託したのだ。

近世になって、陶磁器の絵付け用顔料や漆器用顔料、また、社寺仏閣塗装用顔料として、国内産ベンガラの需要が高まった為、美術工芸高級ベンガラの量産製造が着手され、世界初の人造ベンガラ「ローハベンガラ」が岡山県高梁市にある西江家所有の備中ローハ山、本山鉱山で誕生した。江戸のナノテクノロジー「ローハベンガラ」は、磁硫化鉄鉱から緑礬(ローハ)・硫酸鉄を焼成して酸化鉄にするという、酸化還元製法で高品質なベンガラの量産化に成功した。有田の陶工が絵付けした陶磁器は欧州に輸出され、王侯貴族たちに珍重された。欧州での陶磁器の絵付けに日本の陶磁器は大きな影響を与えた。以後、昭和49年まで「ローハベンガラ」の製造は続けられた。「ローハベンガラ」の特徴は、①天然由来の含有物(アルミ、石英など) ②粒子が大小混ざり合っているため色に粘りと鮮やかさがある ③強い耐光性 ④木部保護

現在、一般に販売されている工業用酸化鉄は、焼成温度を上げ、短時間で製造するため安価ではあるが、色に鮮やかさがなく、耐光性もやや弱い。質より効率へと経済性がシフトし、手間暇かけた伝統産業のよさは見失われていった。

ベンガラの色は古代より特別な「赤」、神聖な「赤」、色褪せない輝きのある「赤」として尊ばれてきたのであって、日本人が残さなければならない精神遺産、文化遺産である。一旦途絶えた「ローハベンガラ」であるが、2010年にベンガラ研究所を設立し、九州大学との共同研究により開発した約一か月かけて作製する「次世代ベンガラ」は、文化財修復、世界遺産の分野で高品質な「ローハベンガラ」で未来へ継承している。次世代ベンガラはベンガラ染体験で使用している。

 

​ローハベンガラ

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西江邸・西江家住宅
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